●●●核兵器の廃絶をめざす法律家は「有事法制」に反対する(声明)●●●



 政府は、「武力攻撃事態法」案・自衛隊法改正法案・安全保障会議設置法改正法案などいわゆる「有事法制」案を国会に提出した。これらの法案は、日本に武力攻撃のおそれが予測される場合(武力攻撃事態)に、国家機関・地方自治体・公共機関・国民を、内閣総理大臣の指揮命令に基づいて、戦争体制に組み込むことを予定している。政府は、わが国土において戦争が起きることを想定し、戦争のためには、基本的人権も、国会の最高機関性も、地方自治も制約しようとしているのである。「有事法制」は、わが国の憲法の基本的枠組みを改変しようとするものであり、政府は「戦争の惨禍」を容認しているのである。

 政府は、現実の国際情勢の下で、特定の国が日本に対して武力攻撃をする可能性はないとしている。にもかかわらず、わが国において現実の戦闘が起きうることを想定するのはなぜか、その説得的な説明はなされていない。他方、政府は、「テロ対策特別措置法」に基づいて、海上自衛隊をアフガニスタンで展開する米軍やイギリス軍の支援のために派遣している。そして、この支援活動に従事している海上自衛隊の艦船が攻撃さされた場合には「武力攻撃事態」に該当するとしている。また、「周辺事態法」にいう「周辺事態」と「武力攻撃事態」とは重なり合う部分があることを認めている。「周辺事態法」は、アメリカが戦争に踏み切った場合に、自衛隊の支援を可能とする法律である。

 アメリカは、イラク・イラン・北朝鮮を「悪の枢軸」と規定し(ブッシュ大統領年頭教書演説)、武力攻撃をほのめかしているだけでなく、「核態勢の見直し」においては、核兵器の実戦使用も視野に置いている。その理由としているところは、「テロ対策」であり「大量破壊兵器の開発と拡散の防止」である。軍事力の強化とその行使が「テロ対策」として有害無益であることは、この間の事態の推移から明らかである。アフガニスタンに対する戦争はアフガンの民衆に新たな悲劇と不幸を生み出しただけでなく、パレスチナの事態を一層深刻化している。また、「大量破壊兵器の開発と拡散」にもっとも熱心なのはアメリカその国であろう。アメリカは、軍事力によって自国の意思を他国に強制することを罪悪だと考えていない。そのアメリカは、日本に対しアメリカの軍事戦略に対する全面的協力を強く求めている。わが国政府は、アメリカのこの軍事優先の姿勢を何の留保もなく受け入れようとするだけでなく、「集団的自衛権」の名において、もっと深くかかわろうとしている。そのための憲法改正が現実のものとなろうとしている。

 私たちは、核戦争を抑止し、核兵器の廃絶を求めて運動を進める法律家として、唯一の核兵器の被爆国の国民として、国際社会から一切の戦争をなくしたいと願う一人の人間として、戦争を優先し、基本的人権と民主的な統治機構を劣後させる「有事法制」に反対する。

  2002.5.7
核兵器の廃絶をめざす日本法律家協会