核兵器をめぐる最新情報


市民のよる核兵器廃絶-3女性の非暴力直接行動に無罪判決
     -スコットランド反核運動ニュース


スコットランド反核運動ニュース

http://ds.dial.pipex.com/condscot/news/index.htm

 

  NATOによるユーゴ空爆が続く6月8日に「核戦争の危険がおそらく高いであろう今こそ」、「核兵器使用の可能性をなくすために」と核兵器システムを非武器化する直接行動を行った3人の女性。10月に彼女たちに対する裁判(本誌33号参照)が開かれ、英国スコットランドの裁判所は無罪としました。

   今回も豊島耕一・佐賀大学教授からニュースが寄せられましたのでご紹介します(編集部)

 


スコットランドの裁判官、

トライデントを違法と判定

 

 10月21日、スコットランドのグリーノック地方裁判所において、マーガレット・ギムブレット判事は、トライデント非武器化運動の一環としてゴイコル湖のトライデント関連音響研究施設に8万ポンドの損害を与えたことで起訴されていたアンジー・ゼルター、エレン・モクスレー、ウルラ・ローダーを無罪とするよう陪審に説示した。

 陪審は被告らを無罪にすることに同意した。

 

 この判断の理由の全体は前日の法廷で示されていた。以下は、その後に判事が述べたことのほぼ正確な写しである。

 

1999年10月20日午後2時8分

グリーノック地方裁判所判事

マーガレット・ギムブレット

 

 抗弁(弁護側の主張)は次の2点に基づいている。

 第一に、3人の被告人は、国際法が述べるところおよび自分たちに示された勧告を理解すれば、トライデントは違法に使われており、単なる所持ではない核兵器の使用および威嚇が違法であるというのが正しいとすれば、自分たちには核兵器の危険の重大さを考えれば、この違法を止めるために何らかの行為を行う権利を有する。

 第二に、被告人らには絶対的な必要があり、トライデントが違法であろうとなかろうと、この必要性があるとする。

 このことを考慮するに際し、私はICJ(国際司法裁判所)が1996年に述べたこと、そしてその意見以上のことについて多くを議論する必要はないと考える。その意見は、「勧告的」ではあるが、何が権威があり全員の一致した意見であるかをはっきり述べている。用語の解釈においては注意深い考慮が必要である。

 結論に至るまでに、ICJは以前の法すべてを「意見」の基礎としており、そのことを念入りに輪郭づけている。この法は法廷で論じられた。ICJの見解は、核兵器の所持が違法だとは述べなかったし、他のいかなる法もそのようなことをどこにも述べていない。

 我々のスコットランド最高法院でさえ核兵器の所持それ自体は違法ではないと述べている。最高法院は「保有」に関すること以外については考慮しなかった。ヘレン・ジョン事件は事案が異なると言って良い。ここでは国際法と必要性とによる抗弁(弁護)がなされているが、抗弁全体は次のことにかかっている。すなわち、現時点での核の使用の危険が存在するか、核兵器国による核の脅威があると認識するかどうか、または核兵器国による威嚇が行われているかどうかということである。使用ないし使用の恐れについて、私は、ICJが、核兵器の威嚇や使用がどんな状況においても例外なく禁止されるとは述べていないことを認める。同様に、核兵器の威嚇や使用を権限づけるような既存の法律もない。

 ICJは次の難解とも言うべき決定も出しており、これはいろんな機会に解釈されてきた。すなわち、「核兵器の威嚇や使用は一般的には、武力紛争時に適用される国際法の規則および原則に、特に人道法の規則と原則に反するであろう。しかしながら、国際法とその裁量に委ねられる事実的要素の現状を見ると、当裁判所は、核兵器の使用や威嚇が、まさに国家の生き残りが問われるような自衛という極端な状況において合法であるのか否かをはっきり結論することができない」。

 最後の言葉が重要である。全体として何を意味しているのかは分からないが、その最後の結論は、使用や威嚇が認められるとしても、それは国家の存続そのものの自衛という極めて限定された状況においてだけであるということを示唆している。ICJの長官は、「当裁判所が到達した公式声明以上のことが言えないことが、いかなる意味でも、核兵器の威嚇や使用が合法との認識への半開きの扉であるかのようには解釈されてはならない。このことを私は強調してもしすぎることはない」と述べた。

 判事たちの投票の仕方も、核兵器の使用に反対が多数意見であることを示した。この点についてのマーレー卿の文章の引用は、卿の立場を示すのに極めて有用である。

 すなわち、「中心問題に戻ると長官がキャスティング・ヴォートを握るまで判事たちの意見は二分された。裁判所は、核兵器の威嚇や使用が、全滅を避けるための自衛という最後の手段を除けば、あらゆる状況において違法であると判断した。少数意見の判事のうちの3人は他の4人の少数意見の判事たちとは反対の見解を述べた。4人は核の威嚇や使用が違法ではないと述べた。別の3人は核の威嚇や使用が常に違法であると考えた。従って、14人のうちの10人という絶対多数は、核兵器の威嚇や使用が全く違法であるか、一つの可能な例外つきで一般には違法であると判定したことになる。3分の2という多数が、核兵器の一般的合法性を否定したのである」。

 私は、核兵器に関する限りで国際法について判断するという、見解の分かれた作業を抱えている。私は単なる下級審の判事に過ぎず、上級審の人たちの英知や経験を持ち合わせていない。反響が非常に大きいものになりうることは分かっている。判事として私は、法の解釈において恐れることなくまた公平にふるまうという誓約をしている。

 国際法の問題点が現に提起されており、私はそれに答えなければならない。上級の裁判所があるから誤りがあれば正され得るという事実に、せめて心慰められるものである。

 ICJ、マーレー卿の論文、特に条約と協定に関する部分を考慮すること、ここでそれ以外は何も提起されていない。

 マーレー卿の論文は「かくて特定兵器の使用の合法性が、それに基づいて評価されるべき諸原則がある。注意されるべきことは、その諸原則が国際的慣習法の構成部分である限り、それはこの国の国内法の一部であるということだ」と結んでいる。

 私はボイル教授の証言を注意深く聴き、本法廷において、彼および他の鑑定人から得られたすべての証拠を考慮した。そして国側からのこれに反する鑑定意見がない以上、被告ら3人が他の多くの者とともに次のように考えたことは正当であると結論せざるを得ない。

 すなわち、イギリスがトライデントを使用すること、単に所持ではなく、重大な不穏の時期での使用と配備に結びついた、また先制攻撃政策を伴い、その時のあるいは現時点での核の使用がICJの見解が示したいずれかの厳格なカテゴリーに当てはまるとの政府当局者による何らの説明もなされない状況では、トライデントの威嚇や使用は脅威とみなされうるし、現に他国によって脅威と解されており、従ってこれは国際法および慣習法違反であるという点である。

 3人は、トライデントが違法であり、核兵器の恐ろしい性質が明らかであれば、それが脅威とみなされるような状況では、核兵器の配備と使用を止めるために自分たちにできることならどんな小さなことでもすべきだという、国際法上の義務が自分たちにあると考えたのである。

 従って、アンジー・ゼルター、ウルラ・ローダー、レン・モクスレーはその抗弁の第一の根拠において正当とされ、それは原則的理由として示されたと考えられる以上、国側がこの抗弁に反証する義務を負うことになる。それは果たされなかったし、しかも私は悪意かつ故意の損害に関する限りにおいて3人の抗弁の主張を認めるものである。

 私は悪意に関するマクローリン氏のコメントを認める。ゴードンは「悪意をもって犯されたのでない限り、いかなる行為も処罰されない」と述べている。私は、被告人らが犯罪的意図をもってふるまったと思わせるような事実を何一つ耳にしていない。従って私は、陪審が訴因4の択一的部分を除き、訴因1ないし3に関して3人全員を無罪とすべきこと、また訴因4の最初の択一的部分についても無罪とされるべきことを、彼らに説得するものである。

 私、あるいは他の誰でも、敢えて危険を冒しても彼女らがとったような行動をとる。核兵器に関して法は不分明である。私は完全に誤っているかも知れない。上訴される場合、私の判断は支持されないかも知れないし、どんな事件にせよ状況の如何によるのである。私が述べたことは、まさにこの裁判所の特有の状況に関してのことであり、6月8日をめぐる国際的緊張に照らしてのものである。

 

        翻訳: 真鍋 毅 

        改訂: 豊島耕一