■■■2002年度総会で採択情勢・活動・財政報告および方針■■■

2002年8月9日 長崎にて


 はじめに> 

わが「核兵器の廃絶を目指す日本法律家協会」は、1992年8月2日、広島で発足した。今年、10周年である。
この10年の間、当協会は、国際反核法律家協会の一員として、「世界法廷運動」・「ハーグ国際平和会議」・「早稲田国際平和会議」・非武装中立の国コスタリカの紹介などの国際的な活動で一定の役割を果たすと同時に、国内においても、反核平和を目指す諸団体との交流を深め、外務省交渉などの行動を強めてきた。
しかしながら、アメリカ政府は、核兵器の廃絶に背を向けるだけではなく、核兵器の先制使用を現実化しようとしている。日本政府も、唯一の核兵器被爆国の政府であるといいながら、アメリカの核政策に異議を述べようとしないだけでなく、「非核3原則」の見直しを示唆している。
アフガニスタンでは、国際法も人道も無視した報復戦争が行われているし、近未来には、イラクへの攻撃も想定されている。核兵器による威嚇とその使用を背景とした超大国アメリカ政府とそれに共同歩調を取る日本政府との対抗なくして、核戦争の防止も核兵器の廃絶も実現しないであろう。当協会の真価が問われている。


 <第1 情勢> 

1 アメリカの「核態勢見直し」(NPR) (井上報告参照)
02年1月、アメリカの「核態勢見直し」が明らかになった。この見直しは、94年のクリントン政権下のものに続いて2度目である。軍事戦略上、核兵器を「使える兵器」として見直し、核兵器使用構想の位置づけを高めたものである。「使える核兵器」の再活性化戦略といえる。その特徴は以下のとおりである。
@ @ 核兵器には実用性があるとしていることである。核兵器は、「潜在的敵対勢力」が、大量破壊兵器や大規模通常軍事力を使用しようとした際に、「信頼度の高い軍事的選択肢」を提供することになるというのである。
A A 核先制攻撃政策を大幅に拡大したことである。アメリカは、78年カーター政権以来、少なくも表立っては、核攻撃への反撃以外には核兵器を使用しないとしていた。それを、「これまでの立場は、9.11以来打ち破られた。」として変更したのである。
B B 通常兵器と核兵器の統合が図られていることである。その重要な狙いは、ハイテク通常兵器と核兵器の統合運用である。核兵器使用の敷居を低くすることになる。これとあわせて、「ミサイル防衛システムの開発と配備」と「核兵器の開発・実験・生産などのための産業基盤の重視」が、戦略核戦力を構成する「新三本柱」と位置づけられている。
C C 50年先の優勢な核戦力保持を展望している。核兵器は、少なくも50年間にわたり、アメリカの軍事力の一翼をなすものと想定され、現存の核戦力を維持し、近代化する計画が立てられている。NPT再検討会議での「自国の核兵器の廃絶」の約束を反故にした上での行動である。
D D 核弾頭の多くが再配備可能状態で保管される。ブッシュ政権は、戦略核兵器を削減するとしているが、その核弾頭の一定部分は「反応用戦力」としていつでも現役配備できる状態で保管されるという。 アメリカの戦略核兵器は、現在、2000以上のロシア国内の目標を設定しているといわれている。対ロ協力の姿勢とは別に、ロシアへの核攻撃の潜在的選択肢は保持されている。
E E 核実験再開準備と新型核兵器の開発が予定されている。地下核実験再開に向けた準備期間が1年程度に短縮されることとなった。また、最新型の核弾頭設計のための特別チームが編成され、トマホークなどの核弾頭改良作業が進められようとしている。

2 「非核3原則」の見直し
これまで歴代政権は、「非核3原則」を「国是」として守っていくとしてきた。ところが小泉政権は、有事法制の議論が行われている国会で、「それぞれの時代、状況、国際情勢を踏まえ国民的な議論はありうる。」(福田官房長官)、「私の内閣では変えない。将来の内閣、どういう内閣ができるかわからないが、そこまであれこれいわない。」(小泉首相)という態度を表明した。これは、時代状況の変化に応じて、憲法を見直すだけでなく、「非核3原則」も見直す、すなわち、核兵器を作ることも、持つことも、持ち込ませる(これはすでに空文化している様でもあるが公式には無視できないでいる)ことも容認しようというものである。ここには、国際的な核軍縮を進めようとする姿勢も、武力による国際紛争の解決を慎もうとする姿勢も、全く見て取ることはできない。
 他方、小泉首相は、ブッシュ大統領が、非核保有国を含む7カ国に対する核兵器の使用を計画していることについて、「アメリカはアメリカの考えとして、選択肢を残しておく。」との認識を示している(6月12日党首討論)。この認識は、01年11月の国連総会において日本政府も賛成した「非核保有国に対する核兵器の使用または使用の威嚇の禁止を保障する効果的な国際協定について早期に合意を達成する緊急の必要性を再確認する。」という決議を無視するものである。
 日本政府は、アメリカ政府の核兵器先制使用戦略に反対しないどころか、むしろそれに同調し、その戦略に加担しようとしている。今国会で継続審議となった有事関連法案は、日本国憲法の原理をないがしろにし、アメリカの戦争に協力するために、自治体や公共企業や国民を総動員しようというものである。自国の支配層の利益を「正義」と「自由」という言葉に置き換え、軍事力による支配を「平和」と「安全」と言い換え、この地球上に第二第三のヒロシマ・ナガサキを出現させようというのであろうか。



 <第2 前回総会以降の活動> 

1 「核兵器廃絶市民連絡会」の外務省との継続的協議
  ピースデポ・YWCA・被団協などと協力して、非核政策などについて、外務省と定期的な協議がもたれている。外務省担当者は、「核兵器のない平和な国際社会を作るという共通の目標がある。」(02年7月26日の外務省との協議での発言)として、この協議を位置付けている。しかしながら、その基本的スタンスは、日本の安全保障のためにはアメリカの「核の傘」が必要であるという「核抑止論」であって、核兵器は人類と共存できないとする私たちの立場とは、大きな隔たりがある。それは、核兵器廃絶のための「アプローチの違い」(同上 外務省担当者の発言)ということではない。もっと深いところで基本的なスタンスが違っているだろう。けれども、この協議の中で、その違いを明確にし、日本政府の核政策に何らかの影響を与えることを追求したい。

2 核フォーラムの継続 
(山田報告参照)
  核兵器に関する単に法律的な側面だけではない研究会が継続的に開かれている。とりわけ、9.11テロ事件の後は、テロと報復戦争をどう見るかについての報告がなされている。

3 HAP・JAPANの活動
  99年のハーグ市民平和会議の成果を日本で引き継ぐ運動が続いている。9.11テロ事件の後のアメリカやアフガニスタンやパレスチナの状況についての情報交換をしたり、有事関連法案が上程された際には、日本国憲法9条の精神を国際社会に発信するためのアピールも発表されている。

4 2件の声明を採択している。
@ @ 核兵器の廃絶を目指す法律家は「有事法制」に反対する 
5月7日
A A 非核3原則の堅持を求める声明 6月5日

5 国際反核法律家協会バルガス副会長の招聘(02.5.01-5.13)
  今年5月のバルガス氏の来日は、非核・非武装の世界を目指す日本の活動家と市民に大きな励ましと勇気を与えてくれた。東京・大阪・山形・長野・埼玉・京都と強行日程だったが、軍隊を捨てることが現実的であることと、その代わりに得られるものの質の高さを実感できる感動的な来日であった。ただ平和運動の一部には、コスタリカに対する評価をめぐり異論が存在しているようである。



 <第3 来期(2003年度)の方針 >

1 「核兵器廃絶市民連絡会」(担当 内藤)、HAP・JAPAN(担当 大久保)、核フォーラム(担当 池田、山田)を引き続き強化していく。

2 「反核医師の会」との協力を強める。
  7月27日、反核医師の会の幹部との意見交流会が持たれた。当協会の参加者は、榊原会長、池田副会長、大久保事務局長、徳岡理事の4人。反核医師の会からは会長、事務局長はじめ5人が参加。反核医師の会のメンバーは9300人とのことである(ちなみに医師会所属メンバーは30万人、保険医団体連合会のメンバーは14万人とのことである)。当面、機関紙の交換などからはじめ、双方の組織の特徴を生かしながら、核戦争の阻止と核兵器の廃絶、被爆者の援護のための共同を作り上げていくことで合意した。今年の反核医師の会の総会(10月松山で開催)には徳岡理事が参加することとなった。

3 核軍縮議員連盟への働きかけ

4 非核三原則の法制化をめざす
非核三原則の法制化を求める長崎市長の平和宣言(02.08.09)および長崎市議会決議(02.06.19)を支持し、ともにその実現をめざす。

5 原爆症認定却下処分の取り消し訴訟に取り組む。
  被団協は、原爆症の認定申請を却下された被爆者を募り、国に処分取り消しを求める集団訴訟を起こすこととしている。被爆者手帳を持つ人数は全国で29万1824人(00年3月現在)、原爆症の認定を受けているのは2238人。「爆心地から2キロ以遠の被爆者には放射能の影響はない。」という画一的な基準の適用が大きな壁になっている。

6 コスタリカのカレン女史を招聘する。
バルガス氏の来日はカルチャーショックをもたらした。カレン女史は、フィゲーレス大統領(1948年に軍隊をすて1953年に大統領に就任)の夫人である。彼女の経験と見識は、現在のコスタリカを語ってもらうにふさわしいものがある。 

7 会員の拡大を図る。
  当協会の任務は大きい。核兵器の廃絶と核戦争の阻止、被爆者の援護は多くの法律家の共感を得ることのできる課題である。何をやるにも、人手と資金は必要不可欠である。会員の拡大を目的的に追求したい。



 <第4 組織体制 >

1 理事会の充実
  理事会は定期的に開催されているが(月1回)、メンバーが固定される傾向にある。ぜひ理事の皆さんに理事会への参加をお願いしたい。また、地方での理事会の開催も考えたい。

2 役員体制
  会長以下三役については再任とする。



 <第5 財政> 

  別紙財政報告のとおり。



 <第6 IALANAについて> 
(IALANA理事会報告参照)
 6月8日から9日までマールブルグで開催された理事会で、全く新しい機構が提案され、了承された。2002年7月以降は、3つの国際事務局が設立される。
・IALANA国連事務局 ニューヨーク
  国連所組織および職員、核不拡散再検討会議、中堅国家イニシャティブ、などとの連携。
・IALANA北事務局、南事務局との協力のもとに新IALANAプロジェクトおよび政策の立案と展開。
・IALANA北事務局  ドイツ
・IALANA南事務局  ニュージーランド


 <質疑・討論から> 

1 議案の前提としてICJの勧告的意見とNPT再検討会議の成果を踏まえる

*意見*
議案に文言はありませんが、当然前提として大切なのは国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見と2000年5月のNPT再検討会議の成果であり、この二つが常に私たちが反核運動をやっていく上での出発点になるということを確認したい。私がそう感じるのは、ブッシュ政権の「核態勢見直し」について分析した人々のコメントを読み、あの内容に私たち自身も驚いて混乱した部分があると思うのです。「一体これからどうなるのだろう」と。反核運動の今までの到達点を踏まえて、アメリカにどう対応していくのかもう一度良く考えて見る必要がある。そうしないと、90年代の反核運動が作ってきた成果が単なる歴史のエピソードになってしまう。私たちが常にそれを前面に押し出さない限り誰もやらない。とりわけICJの勧告的意見を踏まえることは法律家の役割だと思います。

*討議と結論*
 討議の中で、意見提起者から「ICJの勧告的意見とNPT再検討会議の成果を踏まえることが議案書の前提であることは当然であると確認されればよい」との発言があり、「そういう意見があったということを記録に残せばよい、従って議案に文言として盛り込まなくてもよい」となった。

2 非核三原則の法制化および核軍縮議員連盟との連携

*意見*
非核三原則の法制化と核軍縮議員連盟との連携を方針に追加して欲しい。見直し問題が起こる中で、非核三原則を単に国会決議あるいは政府答弁で終わらせてしまえばこの問題はいつまでも蒸し返されます。ですから非核三原則を法制化することがいま一番求められています。法制化するとすればやはり議員立法でしょうから、議員連盟との連携がまず必要になる。そのためにもICJの勧告的意見を国会議員の中にきっちり入れていく必要があると思います。勧告的意見が出たあと、「どう広めていくか、国会議員の中に広めよう」という議論がありました。法律家として議員と連携し核軍縮政策に具体的に反映していくことを方針の中に入れていただきたい。

*討議と結論*
 ・非核三原則の法制化について
非核三原則の法制化を求める長崎市長の平和宣言(02.08.09)および長崎市議会決議(02.06.19)を支持し、ともにその実現をめざすことを明記することとなった。

・核軍縮議員連盟との連携について
昨年出した基本方針の柱の中に超党派の議員との意見交換もあり、今回の方針の中に核軍縮議員連盟に対する働きかけを加えることになった。

3 外務省との協議・・・アメリカの『核態勢見直し』と日本の核抑止論
 
*意見*
 外務省との協議で、外務省は日本の安全保障のためにはアメリカの核の傘が必要であると言ってきましたが、今のアメリカの核政策はもはや「核抑止論」ではない。「使う」というのですから「抑止」の概念ではない。「核態勢見直し」後の日本の核に関する安全保障政策はどう変わるのかを外務省に質していかなければならないと思います。

*討議と結論*
核兵器廃絶市民連絡会と連携して行なう。

4 コスタリカの評価とアメリカの対外政策

*意見*
 議案に「コスタリカに対する評価をめぐって異論が存在しているようである」とあります。私は知らないが、コスタリカとCIAの黒い関係を言う人もいます。
最近アメリカのジャーナリストで元外交官が『ならず者国家』という興味深い本を出しています。アメリカのとりわけCIAが関わってきた対外政策を暴露したもので、例えば自民党が1950年代末から60年代にかけてCIAからお金を受け取ってきたということも書かれています。これについてはニューヨークタイムズも報道しました。また、コスタリカのフィゲーレス大統領が2度CIAに殺されかけたことも書かれています。私自身、コスタリカ政府とアメリカ政府との関係は分かりませんが、CIAとの黒い関係というのはどうなのでしょうか。私か強調したいのは、コスタリカが極めて包括的な平和プランを進めており、軍隊がないというのはその一面であり、平和教育、環境問題、様々の面があり、外交では極めてきわどい丁々発止をアメリカとの関係でやってきたわけです。場合によってはアメリカとの取引もあっただろうし、権謀術策の外交をどう見るのか。コスタリカは軍隊なしにやっているわけですから、私はネガティブに評価するより全体として評価したい。今年のはじめに若手の弁護士たちがコスタリカを訪問し報告書を出しましたが、良くできています。

*意見*
 コスタリカを批判する声には、例えば、CIAがニカラグアのコントラを支援する基地を置くために領土を使用させろと要求され、「ノー」と言わなかったというものがあります。
当時のコスタリカのモンヘ大統領は「ノー」と言わない代わりに中立宣言をやった。それでも事実上CIAは領土を使用し、モンヘは見て見ぬふりをしました。アメリカの経済力と軍事力による圧力のもとでアメリカと正反対の理念を貫くのは大変な努力が必要であり、コスタリカは時に、見て見ぬふり、死んだふりなど権謀術策を弄してきやってきたのです。
また、コスタリカ国民の四分の一が貧困層だ批判する人もいます。しかし、教育の内容、教科書、民主主義のあり方、選挙の方法などコスタリカに学ぶことは大きい。人権侵害には非常に敏感で、最高裁の第四室が人権擁護を扱い、22の裁判官が人権侵害があれば即時に行動するシステムを作っています。

*討議と結論*
 議案書にコスタリカに対するもっと積極的な評価を入れるかどうか?については、今後の活動や討議の中で評価していくものとして、現在は議案書のままでよいとなった。

5 2003年11月に「第二回長崎市民会議」参加について

*意見*
 2000年11月に長崎で開催された『核兵器廃絶:地球市民ナガサキ』集会には、当協会も参加し、『モデル核兵器条約』について紹介した。2003年11月に第二回目が開催されるが、当協会も積極的に参加していただきたい。

6 「HAP+5(ハーグ平和アピール・プラス・ファイブ)」開催について

*意見*
 90年代のNGO会議は5年後、10年後にフォローアップしてきています。例えばリオ会議のフォローアップは今月末ヨハネスブルグで行なわれます。そこで、2004年にHAP'99の5年後のフォローアップの会議を開催したい。HAPの事務局はまだニューヨークにあり、たまにニュースレター「Peace Matters」が送られてきますが、「HAP+5」の会議の開催についてHAP'99の呼びかけ団体のIALANA、IPPNW、世界連邦運動、IPBからの提案はまだありません。そこで私個人として、いろいろなものに書いて会議の実施を提案しています。世界レベルでできないとすれば日本レベルでやることを提案したい。 


*討議と結論*
「HAP+5」について情報を集め、来年の検討事項とする。

7 北東アジアの非核化構想

*意見*
昨年の方針にある北東アジアの非核化構想が、今年の議案書にないのはなぜか。

*討議と結論*
北東アジアの非核化構想は昨年の基本方針の柱のひとつであり、これらの柱は今年の議案書に盛り込まれていなないから、やらないというのではない。今年の議案書には来期の方針を盛り込んだと理解していただきたい。

8 インド・パキスタンの核兵器問題

*意見*
当協会として印パの法律家に対して核兵器の使用はやめようという働きかけができればよいと思う。1月に自由法曹団の一員としてパキスタンの法律家と交流してきましたが、核の恐ろしさについては良く知っているし、日本の法律家と交流を深めたいと言っていました。

*意見*
印パで核兵器が使用される可能性については様々の議論があり、また、核戦争が起こったらどんな被害が出るかの予想、インドの核ドクトリンの草案も出されている。そうした資料を集めて分析する必要があります。

*討議と結論*
この問題についてどこにどう働きかければいいのか。引き続き理事会で検討し、会員からも意見を募る。