今年度の日本反核法律家協会の目標

 1.1999年度総会で採択された活動報告と運営方針

   

総会:1999年8月5日   広島弁護士会館にて

第1 核をめぐる国際情勢
 

 過去一年間の国際情勢は、米国主導のイラク及びコソボへの武力行使に見られる大国の強引な武力行使(力の支配)と、これに対し武力によらない紛争解決(法の支配)を目指す世界的な市民運動(ハ−グ市民社会平和会議)の二つの大きな流れに象徴される。
 

 1  二〇世紀における力の支配                                                        

 人類が核時代に入った最初の世紀である二〇世紀が終わろうとしている。

 現在の世界の情勢のマイナス面の特徴は、ソ連・東欧圏の崩壊と米ソ和解により大国間の核戦争の可能性が減少したにもかかわらず、核兵器及び通常兵器の軍縮は停滞し、逆に、続発する地域紛争に大国が軍事力を優先的に利用する方法で介入をする方向に重点が移り、核戦力を背景とした軍事力活用の新たな戦略が固定化しつつある。

 これは世界の安定的な平和をもたらすものではない。このままの状況を許すならば、人類はやがて核戦争によって自滅する日を迎えるだろう。

  しかしながら、核兵器を含む軍事力の減少を嫌う大国の政治勢力はこのような「力の支配」の時代が続くことを望んでいる。

 2  力の支配を覆す新しい力     

 このマイナス面の特徴に対し、現在の世界情勢のプラス面の特徴も注目しなけばならない。「力の支配」が荒れ狂い血にまみれた核時代となった二〇世紀は、戦争によって正義も平和ももたらされななかったという教訓、戦争がもたらしたものは殺戮と廃墟と言語に絶する悲哀だけであった、という大きな教訓を人類に残した。この多くの人間の犠牲によって残された貴重な教訓は、力の支配の政策を続ける大国らによっては生かされておらず、かえって、力の支配の犠牲となった世界の市民や中小国家のたゆまぬ努力 によって国際的な運動となって生かされてきた。

 今世紀の最大の暴力手段である核兵器の使用(広島・長崎)・実験(ネバタ・南太平洋など)・事故(チエルノブイリなど)などによる被害者とそれを支援する人々によって起こった核兵器廃絶運動は世界に広がっていった。同じころに、人間の尊厳を冒とくする制度としての人種差別や植民地支配に苦しんだ第三世界の人々たちによって人間の平等、民族の自主権・独立を求める運動が起こり広がっていった。これらの運動が、核兵器・武力・戦争などによる「力の支配」を終わらせようという共通の目的のもとで、 世界的な運動となって合流して、大きな国際連帯が生まれ始めた。

 その連帯の大きな成果が本年五月、ハ−グ(オランダ)で開かれた平和のための市民社会会議であった。それは「力の支配」を転換して「平和と正義の法の支配する世界」をつくろう、という人類の願いを実現する第一歩であった。                        

 3  楽観を許さない核をめぐる情勢       

 核兵器をめぐる最近の情勢は、国際司法裁判所の「核兵器の使用と威嚇は一般的に国際人道法に違反する、すべての政府は核軍縮交渉を完結させる義務がある」という国連総会に対する勧告的意見(一九九六年七月)が出されているにもかかわらず、NPT条約の再検討会議準備会議の現状は、核保有国による妨害によって核兵器廃絶を目指す交渉が遅々として進展しない状況にある。日本政府は米国に同調して妨害者の役割を果たしている。しかも米国の戦略は依然として核戦略体制を中核とする世界戦略を堅持しており、これに危機感をもった中国及びロシアは核戦略を維持乃至強化するきざしさせ見せている。

 「力の支配」の政策は、米国の主導によるNATO軍のユ−ゴ−スラビアへの武力行使によって新たな段階に入った。米国の主導するNATO軍は、国連憲章により平和措置を執行する権限を与えられた国連安保理事会を無視して、直接に他国の国内紛争に「人道的介入」という名目で軍事介入したのである。これは従来には見られない異常な軍事行動である。かれらはこれを例外としてではなく、「新しい戦略」として承認されたとして、その成果を誇示したのである。

 これは新たな核戦争をも予想される事態とも言える由々しき事態である。

 これは、現在の世界の「法の支配」の理念をかろうじて維持している国際連合機構をも完全に無視するものであり、国連憲章にも国際法にも反するものである。

 「力の支配による世界」を「正義と平和の法の支配による世界」に転換することを望む世界の市民にとって憂うべき事態である。これは二〇世紀の戦争による厖大な犠牲者の残した大きな教訓を忘れて、戦争・軍事力の支配する殺戮の世界に戻ることになる。二一世紀を「力の支配する時代」にしてはならない。

 4  市民・NGO・非同盟諸国中堅国家の運動
      

 これに対して、二一世紀を「力の支配する時代」にしてはならない、という世界の世論は着実に広がっている。核兵器廃絶運動をめぐる国際状況は、国際司法裁判所の勧告 的意見が出されて以来、市民運動やNGOによる運動、国家または国家の支援する機関による運動などにまで多彩な活動が広がり始めている。そのすべてを把握することができない状況にある。主な動きを次に挙げておく。

1 市民運動

 核兵器廃絶の日本の市民運動は、世界でも類例がないものである。一九五五年の第一回原水爆禁止世界大会以来四四年にわたる原水爆禁止運動があり、翌一九五六年の原水爆被害者団体協議会の結成以来四三年にわたる原爆被爆者による核兵器廃絶・原爆被害の国家補償要求運動があり、これらの運動がいずれも現在においても衰えることなく続き、特に現在国内、国外で展開されている写真パネルによる「原爆と人間展」は国内外で大きな反響をよんでいる。また、国際的には、一九九五年四月以来活動をしている「アボリション2000」は、西暦二〇〇〇年までに核兵器禁止条約を目指すNGOの地球的ネットワ−クであり、世界的規模の世論の動員に大きな役割を果たしている。

 また多数の世界各国の元将軍等や元大統領・元首等による核兵器廃絶の声明は、世界の世論に確実に影響を与えた。

2 NGOによる運動

 IALANA(国際反核法律家協会)、IPPNW(核戦争防止国際医師会議)、   IPB(国際平和ビュ−ロ−)の三つのNGOが、一九九二年五月に世界法廷運動を呼びかけて、九六年七月に「核兵器の使用と威嚇は一般的違法、核軍縮交渉を完結せよ」という国連総会への勧告的意見の獲得に成功し、その上に立って、WFM(世界連邦運動)の参加を得て、核兵器も戦争もない正義と平和の秩序による二一世紀を目指す「ハ−グ平和市民社会会議」を本年五月、ハ−グ(オランダ)で開催し、大きな成功をおさめた。                                                             

3 国家による核兵器廃絶を目指す運

 一九九八年六月、新アジェンダ連合が出現した。ブラジル、エジプト、メキシコ、アイルランド、ニュ−ジ−ランド、南アフリカ、スウェ−デンの政府は、核兵器国及び 三つの核兵器能力国(インド・パキスタン・イスラエル)に対し、即座にとれる核兵器廃絶への行動計画を実施することを要求し、「われわれは、共同して核兵器のない世界という目標を成就する決意である」と公然と宣言し、国連において核兵器廃絶を目指す活動を開始した。

  非同盟諸国会議は、一九六一年国連総会での「核兵器使用禁止に関する宣言」の決議のイニシアチブをとって以来、国連内で核大国とその同調国(日本も含む)の妨害を受けながらも核兵器の廃絶のために行動してきたし、世界法廷運動の成功においても大きな役割を果たし、また、一九九六年八月には「二〇二〇年までに核廃絶をめざす包括的な計画」を提案した。

4 国家の支援する機関による運動  

 中堅国家構想は、一九九八年三月に国際的な市民組織のネットワ−クによって設立され、ダグラス・ロウチ(カナダの元軍縮大使)が議長で、核兵器のない世界を達成するために各国政府、政府間国際会議、非政府組織との協議を通じて活動している。

  オ−ストラリヤ政府のキャンベラ委員会は具体的な核兵器廃絶計画案を提示した。

第2 核兵器並びに軍事に関する国内情勢

1  日本政府の軍事力に依存する異常な政策

       

 日本政府は依然として、日本の安全を米国の核兵器を含む軍事力に依存するという政策を堅持して、米国の核抑止力を承認し、かつ核抑止力を効果的ならしめるために核兵器の先制使用政策を米国に期待している。

 日本政府は、新ガイドラインに基づく周辺事態法などの一連の立法の成立を急いでいる。これは、米国が朝鮮半島や台湾において、地域紛争が生じた場合に武力介入をする必要がある場合、日本の全面的な協力を求める体制をつくるものであることは、容易に推察できるところである。つまりアジアでの武力紛争を想定するものである。

 地域紛争に大国が武力で介入することが紛争解決にならないことは、湾岸戦争以来の国際政治において証明済みのことである。現在の世界では、地域紛争には国連によって紛争を解決することが国連憲章の基本原則であり、世界の世論である。すなわち「力の支配」は平和をもたらさない、というのが二〇世紀の教訓であり、それが世界の世論でもある。これに反して、日本政府の新ガイドライン政策は、米国の軍事力優先政策に全面的に協力するという異常さであり、世界の流れに逆行するものである。

 これらの日本・米国のアジアに対する政治姿勢は、二〇世紀の前半にアジアに荒れ狂った戦争と暴力の支配を繰り返すおそれがあり、アジアの平和に有害である。

 

 2  政府と国会の行動に対する国民の対応
       

1 国会は絶対多数の与党議員の力によって、十分な審議がなされないままで、戦争関連法が次々に成立していく憂慮すべき事態となっている。

 国民の世論は、このような事態を憂慮して政府と国会を揺るがし廃案に追い込むような大きな継続的な反対運動が現在のところ起こっていない。

 国民不在の官僚・財界・政界の腐敗構造、継続する経済不況、増加する倒産・破産事件、介護保険制度をめぐる老後の生活不安、学校・教育現場の崩壊、異常な殺人事件や自殺事件の増大という社会状況のなかで、希望の見えない閉塞状態に追い込まれた国民は、政治に絶望している現実がある。特に二一世紀の社会生活の中堅者となる現在の青年の状況は一部を除いて、展望のない悪しき環境のなかに放置されたままになっている。しかし、彼ら青年を含む政治における多くの無党派層は「何も考えていない層」ではなく、現状に絶望しながらも何かしなければならないと「考えている層」である。これらの人々は、社会の冷静な批判者である。これらの人々の共鳴と支持を得ると同時に、希望をもたらす政策提案が出来るならば、それに多くの人々が支持   し共鳴して行動し始めたなら、この憂慮すべき腐敗した政策と政治を変えることが出来るはずである。
                                                                               

第3 当協会は、この一年どのような活動をしてきたか
                             

 1  当協会が参加したハ−グ平和  

 市民社会会議はどういう会議だったか               

1 ハ−グ平和市民社会会議は世界法 廷運動の延長

 ハ−グ平和市民社会会議は、一九九二年以来展開された世界法廷運動の勧告的意見(九二年)という成果の上に立って、その延長として更にステップアップして、核兵器も戦争もない二一世紀を展望する地球規模の運動として開かれたものである。

 したがって、この世界的な運動の中核をなしてきたIALANAの日本の唯一の加盟組織である当協会としては、この一年間の活動のほとんどをハ−グ平和市民会議の成功のために投入した。そうして当協会は、その活動のなかで大きな仕事をした。

2 ハ−グ市民会議はどのように組織されて成功したか。   

  

 国際反核法律家協会、核戦争防止国際医師会議、国際平和ビュ−ロ−、世界連邦運動の4つのNGOで構成する調整委員会と組織委員会が集会を準備した。その準備の仕方は、約1年半以上もかけて、世界中から参加する闘う市民たちの要求を、下から積み上げて討議草稿に集約しながら大会の内容を作り上げてゆくという方式である。

  この方式により、約一万人に達したという参加者のエネルギ−を存分に引き出すことができた。さらに参加者のうち約千五百人が暴力による抑圧に抗して闘ってきた第三世界からの参加者であり、また約千五百人が二一世紀の世界の主役となる少年少女も含めた若者たちであることによって、この会議を盛り上げる役割を果した。

  集会の企画者たちは若者たちに「戦争のない正義と平和の二一世紀」を創造する推進者としての将来の活躍を期待したのである。一方、開会式並びに閉会式では、主として欧米とその関心のある第三世界の代表的な平和活動家やアナン事務総長などの国連関係者、首相・外相クラスの来賓、地雷で片足を失った少女などを登場させて演説させるなど、正義と平和の祭典にふさわしい格調高い儀式を演出したのである。

  現在の国際政治で無視できない存在である中国、ロシア、フランスなどの市民の影が見えず、また欧米中心主義の会議であったことに問題があることは否めないにしても、今回の国際市民平和会議は、二一世紀を展望した二〇世紀の最後を飾る市民社会の会議としては実りある画期的な大集会であったと言っても過言ではない。

3 集会は人間の歴史の新しい時代の 

  始まりを告げる祭典であった。

 今回の会議は、権力者(支配者)の利害・打算によって国家間の政治関係を形成するという従来の国際政治の基本的な仕組み(暴力の支配)に代えて、権力者に抵抗する人民が国際政治の主導権を握ることによって正義と平和を実現(法の支配)しようという新しい時代の到来を宣言した儀式であり、祭典であったということができる。

     ツツ大司教の感動的演説「われわれには戦争を終わらせる力があります!」

 開会式のデズモンド・ツツ大司教(南アフリカ共和国・1984年ノ-ベル平和賞受賞)の スピ−チは、平和市民会議の意義を見事に象徴するものであった。彼の「われわれが奴隷制度を、ホロコ−ストを、アパルトヘイトを終わらせることが出来たのであれば、われわれが終わらせることが出来ないことなどあるのでしょうか。われわれが決意をもって望めば、われわれには戦争を終わらせる力があります」という呼びかけは感動的であった。それは、人々に自信と勇気を与えてくれたものであった。

5 集会は「日本国憲法第九条を見習らって戦争を禁止せよ」を運動の原則とした。

 日本の法律家代表団は、憲法九条の存在とこれを米日政府によって侵害されている現実を訴えた英文冊子一千冊を集会で配布して、日本国憲法九条の「非軍事の規範を世界の規範に」と呼びかけた。また日本から参加したピ−スボ−ト、YWCAなどの市民グル−プと一緒になって「憲法九条を世界に」(英文)というビラ四千枚を会場で配布した。会議は閉会式にさいして、討議の成果を集約して、「公正な世界秩序のための一〇の基本原則」を発表し、これをアナン国連事務総長に交付した。

  その第一原則に日本国憲法第九条が登場したのである。これは、核時代に人類が生き残るには日本国憲法第九条を規範とするしかないことを世界の市民が宣言したことを意味する。ガイドラインを法制化する周辺事態法などの戦時法を急ぐ政府・与党の政策が、世界の世論に逆行するものであることが証明されたのである。

  戦争も核兵器もない世界を実現する運動の規範として日本憲法九条が世界の市民から承認されたことは、日本代表団にとって今回の会議における大きな成果となった。

 しかし、この反面、ハ−グの成果は、日本国内での平和運動・反核運動に極めて重い課題を課すことになった。                                                 

 2  ハ−グ平和市民社会会議を通じて当協会の果たした役割    

        1 会議の準備活動における当協会の役割

 当協会は、NGO世界連邦運動の日本支部である世界連邦建設同盟と共同して日本連絡会を結成し、同時に、日本国際法律家協会、自由法曹団、日本民主法律家協会、日本青年法律家協会とともにハ−グ集会に参加する日本法律家委員会を結成した。

 これらの二つの準備会は、合同してハ−グ平和市民会議の宣伝・広報、会議への参加呼びかけ、レクチャ−、講演会、シンポジュウムなどに主要な役割を果たす活動をした。また、ハ−グでの日本デ−計画の準備と配布文書の作成・英訳などの活動、ハ−グ市民会議についての情報提供のために翻訳・出版活動などを行った。それらの活動の予算約四五〇万円の確保のための財政活動も精力的に遂行した。

 その結果、日本連絡会及び法律家委員会からの呼びかけで、全国から六二名がハ−グ会議へ参加した。日本からは他に被爆者運動、原水爆禁止運動、平和運動、市民運動、労働運動などのグル−プが参加し、全体で約四〇〇名がハ−グ集会に参加した。

  その多くは当協会が発行し提供した登録案内、討議資料を参考にして参加した。

 日本連絡会と法律家委員会によるハ−グにおける「日本デ−」の準備と成功に当協会は貢献した。

 その成果の概要は機関紙『反核法律家』32号(ハ−グ特集号)に掲載した。

 なお開会式、閉会式、日本デ−(来賓は主催したNGO四団体の各代表者、広島、・長崎市長、大田元沖縄県知事、オ−バ−ビ−教授、植木光教日本世界連邦建設同盟会長、土井たか子社民党党首など)の演説集を作成する予定である。                           

2 ハ−グ会議の準備とハ−グ日本デ−の成功により示した法律家の特別の役割          

 ハ−グ集会の準備は、法律家が中心となり「核兵器も戦争もない世界を」と呼びかけたことは、日本の長い歴史をもつ平和運動、反核運動、市民運動を結集するという大きな役割を果たすことになった。日本連絡会は毎月の例会を重ねる度に、様々な組織から、また、様々な個人が参加してきた。本年三月ころからは、当初から参加して   いた被爆者団体、生活協同組合、ピ−スボ−ト、YWCA、反核医師の会などだけではなくて、従来とかく対立してきた原水協、原水禁、核禁会議、連合、創価学会まで参加して、意見の対立が予想される課題は避ける配慮をしながら、熱心に打ち合わせをし、むしろ一緒に会議ができることに喜びを感じているような雰囲気さえ感ずるよ   うになったのである。会議が終わると、それらが自然に居酒屋での二次会となり、大声で語り合うまでになった。参加したある市民が「法律家が主催してくれているのでみんな安心感があるのじゃないかな」とつぶやいたのは印象的であった。       

   そしてハ−グでの日本デ−でそれが結実したのである。そこには自民党の元国務大臣植木光教議員も堂々と世界連邦運動の意義を語り、参加者は熱心に聞いていたのである。土井たか子社民党党首が参加している人々を見て驚いて、このような会議が日本で開かれるといいですね、と思わず語りかけてきたくらいであった。

 この成功の原動力となった法律家の役割の重大さを身に沁みて感じたのである。

 以上のように、当協会はこの一年間において、歴史的な大きな仕事を遂行した。 

 3  協会のその他の活動

 当協会は、九八年一一月、国際民主法律家協会(IADL:NGO)と法律家五団体(日本国際法律家協会、自由法曹団、日本民主法律家協会、日本青年法律家協会、当協会)の共催で「核兵器のない世界を求めて」をテ−マに、アジアの法律家と市民の連帯を強めるための、アジア法律家市民フォ−ラムを日本青年館で開催した。IADL役員、中国、シンガポ−ル、マレ−シア、フィリッピンから法律家、医師、ジャ−ナリストなどの参加を得て開催された。集会参加者の名で「核廃絶をめざす1998年東京アピ−ル」を採択し、アピ−ルの最後で、ハ−グ平和市民集会への参加を呼びかけた。

 4  組織活動の問題点

1 当協会の組織活動の現状                                                          

  当協会の組織活動は殆どこの一年改善されることはなかった。これは当協会の大きな課題である。理事会の参加者は一時的には増えたが、その後は毎月の理事会の参加は、会長・IALANA副会長・事務局長の他に理事は一名から多くて三名程度である。事務局体制は崩壊状態である。しかしながらこの一年の入会申込者は五九名に上り、確実に当協会の活動につての支持と関心は増加の一途をたどっているのである。   

 因みに一〇年前の発足当時は約一二〇名だった会員は現在四六〇名に達している。   

 さらに重要なことは、現在の日本の現状は危険な方向に進み始めているから、これを放置できないという、多くの市民がいるなかで、市民側からの法律家に対する期待は極めて大きい。

 協会はこの期待に応える活動をしなければならない。

 そのためには、現在の組織体制を根本的に改革し、活動力のある役員・理事会と事務局体制に作り替える必要がある。組織体制の改革を成功させるために、特にハ−グ平和市民会議日本連絡会などの準備に参加した法律家、またハ−グ集会に参加した法律家たちに是非事務局や役員として積極的に参加してもらう。

2 当協会の組織体制について、次のように改革する。

イ、理事会体制の改革

@      理事の増員−副会長のいる都道府県から理事若干名を選出する。

  現在の理事は、関東反核法律家協会当時の理事だけである。これは毎月の理事会に、全国から参加してもらうのが困難なためであった。

   この問題は、理事会の回数を減らすとともに、各地の理事の参加する全国理事会とすることによって解決する。

A      理事会の開催回数

  理事会は、全国理事会として年に、 

  二回乃至三回開くことにする。

開催地は副会長のいる地とし、その都度副会長の意見を聞いて会長が決める。   

ロ、副会長または支部を増やす。

  支部がまだできない地域に副会長を置くことの効用は、その地域の活動において副会長は、支部の役割と同様な役割をすることができる。更に副会長のいる地域から理事を出してもらえば、副会長はその地域での活動について、理事と協議をすることが出来る効用がある。

  副会長を配置または支部を設立する候補地は京都府、北海道、東京、埼玉県、神奈川県、愛知県などがある。

ハ、事務局体制の強化

  理事会の回数の減少により、日常的 な活動に影響があってはならない。

@      当協会のこれからの飛躍的な活動のために、事務局長は五〇歳代の会員が就任し、事務局には若い会員(主として三〇歳代の会員三名乃至五名)が事務局次長として参加してもらい新たな事務体制を創り、その新事務局によって活気のある活動を展開する。

A 事務局会議は事務局長が主宰する。

   事務局長は必要に応じ、事務局会議に会長、全国理事に出席を求めることができ、また会長、全国理事は随時出席することができる。

ニ、総会の開催地と開催日

  総会の開催地を毎年八月に広島と長崎で交互に開催ということを慣例としてきたが、他の地域でも開催できないか、という会員の声もあるので、広島と長崎以外の地域でも開催することを了承し、日時、場所、議題は、会長が事務局長と当該地の副会長の意見を聞いて決定する。

 5  財政問題

  

   依然として、赤字財政の克服は達成されていない。会費の値上げは現在は適当ではない以上、当面は会員拡大による会費の増収が中心である。

  その他の収入の財源は出版物による販売収入であり、これを会員が協力してもらう。

 不足になった時期に特別寄付を求める方式を当分続けるしかない。

 6  委員会活動

 組織体制が弱いので、委員会活動をする余地はない状況にある。
  次に述べるような活動の課題が多いので、新事務局体制が確立するにしたがって委員会活動は活発化することを期待する。
 

第4 これから一年の活動方針
                              

 1  『米国の核の傘から離脱する』ことを当協会の当面の目標とする。

 「核兵器のない世界を創ること」は日本の被爆者をはじめ全世界の人類の共通の願いである。それにもかかわらず、被爆国の政府が日本国民の願いと、世界の人々の期待に反して「米国の核の傘」に日本の安全を依存する政策を取っている。このことは、世界の核兵器廃絶運動の大きな障害となっている。核兵器廃絶を求める世界の人々は先ず被爆国である日本政府が「核兵器の使用を支持する政策(核の傘)」を変えることを期待しているのである。当協会は、日本の法律家として、日本政府に対して『日本は米国の核の傘から離脱する』政策に転換することを積極的に働きかけ、また地方自治体に対し、非核政策を自治体政策においても採用するように働きかけることとし、当面の次の事項を具体的な目標として活動する。

                                                1 総会の本年八月五日決議に基づく政府への要請行動並びに世論喚起活動

                 

イ、国連で新アジェンダ連合の提案する決議に賛同すること

  

ロ、米国の核兵器に依存する政策を止め ること

ハ、北東アジア非核地帯条約を実現すること

                                      2 上記に関連する活動目標

イ、  核兵器も戦争もない世界を創るための研究会活動−憲法九条の実効性の確認

ロ、核兵器も戦争もない世界を創る世論作りのための学習・啓蒙運動

ハ、軍事力による安全保障政策(周辺事態法など)の立法・実施を阻止する運動

ニ、憲法九条の改憲を阻止する運動

  上記の運動目標を目指し、他の法律家の組織や市民団体、個人、さらに国際的な市民組織に呼びかけて、日本政府に対し様々な方法を工夫して、政策変更を求める運動を多 面的に強化する。

 運動の対象をどこに置くか、どこを重点に、何を要求するか、を個別的に検討。

イ、政府、担当省庁または地方自治体                                              ロ、国会議員、地方自治体議員

ハ、政党の責任者と政策立案担当者                                                ニ、国連またはNGO

ホ、各国大使館、領事館

ヘ、マスコミ

ト、市民団体や市民

2 各地の活動経験による運動方法                                               イ、東京九八年一一月二一日、インド、

  パキスタン、中国、マレ−シアの参加で、アジア法律家市民フォ−ラム『核なき世界を求めて』  共催:国際民主法律家協会( NGO)、日本民主法律家協会、青年法律家協会弁護士学者合同部会、自由法曹団、日本反核法律家協会、日本国際法律家協会。共同声明「核廃絶をめざす一九九八年東京アピ−ル」採択:核兵器のない二一世紀をめざし世界の市民と法律家の連帯を広げよう!ハ−グ平和アピ−ル一九九九年世界会議に参加しよう!

ロ、              広島  本年九月一一日(土曜日)

  午後一時三〇分〜四時三〇分                         『日本の安全保障と核の傘を考える平和シンポジウム』と『講演−金子熊夫』  共催:広島市・広島県医師会・広島弁護士会    場所:広島県医師会館講堂。シンポは、賛成論と反対論に分かれて討論、水本和実教授がコ−デイネ−ト 

 3  展望

 現在の日本と米国の政府の法の無視・暴力支配の政策のままでは、世界は『米国の暴力による世界支配』が続き、ロシア、中国らの反発が起こり、再び大規模な核戦争が起り、「戦争の二〇世紀」を繰り返すことになることは必至である。

 そうなれば人類の死滅も現実のものとなる。『米国の暴力による世界支配』を阻止するには米国の核の傘を受け入れる日本政府の政策を変更させることがまず第一である。

 日本政府の核政策を変えれば、アジアは変わる。アジアが変われば米国も変わる。



第5 役員改選と事務局体制

                             

 1  会長(総会が選任)                                                             

 松井現会長は七七歳に達し、健康状態も完全ではないので、後任の候補者があれば辞任したき希望を出されていたが、総会までに後任の候補者が得られなかった。

 総会は、会長として松井康浩会長の留任を採択した。

 総会は来年の総会までに、次期会長の候補者を広く求めることを申し合わせた。   

 2  理事(総会が選任)

 総会は、従来の理事はそのまま再任されたことを承認し、その他に各地の副会長が総 会終了後推薦する理事(若干名)を本総会で選出した理事として選任したものとする。(*本誌14頁参照)  

 総会終了後、各地の副会長は理事若干名を推薦して会長に通知する。

 

 3  事務局長(会長が選任)

 会則では副会長と事務局長は会長が理事会の承認を得て選任することになっている。

 池田現事務局長も七一歳に達し、健康状態も完全ではないので、かねてから辞意を表明していたところ、ハ−グ集会に参加した法律家委員会の事務局長を引受けて活躍をした当協会の大久保賢一理事(五二歳)が当協会の事務局長を引受けてくれる内諾を得たが、事情があってすぐには無理であるとのことなので、就任可能な状況になれば、理事会の承諾を得て会長が選任する運びとなる予定である。                     

 3  事務局体制確立と事務局次長の依嘱

 事務局体制の強化について、事務局長は次のように報告した。

  機関誌の編集発行を担当する中山康子(有給)、会計を担当する四谷法律事務所の小林映一事務長(無給)を除き、当協会の日常の活動はすべて事務局長が担当してきたために、協会の事務局体制は無きに等しい状況であった。

 現在の国際・国内の憂慮すべき情勢において、当協会の役割と責任と期待が大きくなっている以上、当協会の事務局体制を飛躍的に強化することが緊急な課題である。

 事務局体制の確立を具体的に次のようにしたいと考える。

  大久保理事が事務局長就任可能となり理事会の承認を得て会長が選任するまで、事務局は次の体制を作る。

 事務局体制は、原則としてハ−グ集会に参加した体験者で構成することとし、池田事務局長を中心に、大久保賢一理事がサポ−ト役となって、以下の事務局次長らによって、事務局会議を構成する。

 事務局次長は、内藤雅義理事(弁護士・研究会担当)、麻生多聞会員(早大大学院生)、伊藤和子会員(弁護士・代々木総合法律事務所)、斉藤園生会員(弁護士・八王子合同法律事務所)に依嘱する予定である。内藤雅義理事は従来から政府交渉のための核政策委員会の発足を担当しているからであり、麻生・伊藤・斉藤は二〇〜三〇代の若手法律家で、ハ−グ会議のジャパンデ−の自主企画の準備やスピ−チを経験し、全世界から集まった市民のエネルギ−の爆発を肌で体験した人たちなので、特にお願いすること にした。新しい体制に素晴らしい活動が期待される。この他に安原幸彦理事、徳岡宏一朗元事務局次長が何らかの方法で参加することが期待されている。



第6 賛助会員についての承認

     

 法律家でなくても本協会の主旨に賛同する人を「賛助会員」として入会を認める制度 を取入れることについて、総会は次のように決めた。

  「総会は、賛助会員制度の採否を理事会に一任する」。 

以上

           

      JALANA    1999年度定期総会決議

        

日本反核法律家協会  日本政府に米国の核兵器に依存する政策を止めることを

             求める決議 (1999年8月5日)

 国際反核法律家協会、核戦争防止国際医師会議、国際平和ビューローのイニシアチブによって国際的に展開された世界法廷運動において、当協会の国内活動は日本国内の被爆者や生活協同組合の市民たちの協力を得て大きな運動となり、また国際的には世界の多くの非同盟諸国の協力を得た結果、国際司法裁判所は国連総会に対し「核兵器の使用と威嚇は一般的に違法であり、すべての政府は核軍縮交渉を完結させる義務がある」との勧告的意見を出すにいたった。これは世界の核兵器廃絶運動に有利な状況をつくることになった。上記のNGO三団体は、NGO世界連邦運動を加えて、運動をさらに発展させ、戦争と核の20世紀を、戦争も核もない正義と平和の秩序の21世紀に代えることをめざして、ハーグ平和市民社会会議を全世界に呼びかけた。さる5月、100ヶ国をこえる国々から1万人の市民がハーグ(オランダ)に集まり、4日間にわたる討議を集約して、会議は正義と平和の秩序ための10の原則を発表した。

 そのなかで、「各国の議会は日本国憲法第九条にならって、戦争を禁止する決議を採択するべきである」、「各国政府は直ちに核兵器廃絶条約を締結する交渉を始めるべきである」という原則を打ち立てた。世界の市民やNGOは、中小の多くの国々と連帯して、核兵器も戦争もない世界をめざして進み始め、成果を挙げ始めたのである。

 ひるがえって、わが国の政情を見るに、人類最初の核兵器による攻撃を受けた悲劇の国であるにもかかわらず、わが国の安全を米国の核兵器に依存する政策を堅持している。

 これは、核のない世界を求める世界の流れに逆行するものである。

 さらに、世界の市民の多くが、日本国憲法九条を見習って、戦争のない世界を創ることをめざして運動しているにもかかわらず、わが国の国会は政府の提案による戦争協力法を続々と制定して、憲法第九条を葬り去ろうとしている。これも戦争のない世界を求める世界の流れに逆行している。

 日本は、このままでは世界の正義と平和の秩序形成の妨害者となるであろう。

 このような現状が再び政府の行為によって戦争の惨禍を繰り返すことになるであろうことを憂慮し、当協会は、日本政府が国際社会において、戦争も核兵器もない世界を創るための運動の先頭に立つ政策を実施することを強く要請し、その重要な第一歩として、

1 国連において新アジェンダ連合の提案する決議に賛同すること

2 日本の安全を米国の核兵器に依存す る政策を早急に止めること

3 米国の核兵器に依存する政策に代えて、朝鮮半島と日本列島を含めた北東アジア非核地帯条約を締結する外交政策を積極的に進め、これを早急に実現すること

を要請する。

 上記、決議する。

 1999年8月5日 

 核兵器の廃絶をめざす日本法律家協会

 1999年定期総会