核兵器の廃絶をめざす日本法律家協会
 
 
 
 
  意見 >>> その他の文書
バンクーバー宣言 2011年2月11日
核兵器のない世界を緊急に達成することを求める法の要請
 

 核兵器と人道の基本的考慮とは両立しえない。
  人間の安全保障は現在、危険にさらされている。というのは、国家による核兵器の意図的使用が予見されるからだけではなく、核兵器の生産、貯蔵、移送および配備から生じるリスクと害悪も存在するからだ。このリスクや害悪にふくまれるのは、環境破壊や健康被害であり、資源の流用であり、即時発射の準備態勢にある核兵器の配備と不適切な指揮・管理および警報システムとによって生じる事故によるまたは無許可での爆発のリスクであり、そして、分裂性物質や弾頭の不適切な管理から生じる非国家主体による取得と使用のリスクである。
  新START条約(新戦略兵器削減条約)ができたけれども、世界を破壊しつくす数量をはるかに越えた核兵器がなお存在している。これらは廃絶されねばならず、法はその廃絶に枢要な役割を果たす。1996年、国際司法裁判所(ICJ)は、「核兵器の使用を特定的に禁止する慣習的規則」の「生じつつある法的確信」について述べた。以来15年、国際刑事裁判所の設立や化学兵器禁止条約の発効、条約による対人地雷とクラスター弾の禁止の達成を承けて、核兵器の使用禁止と廃絶への法的要請はこれまで以上に明白である。
  核兵器をたえず持ち続けるため考案された理屈には、軍事的必要とかケース・バイ・ケースによる分析とかいったものがふくまれる。だがこれらは、かつて核兵器以外の非人道兵器を正当化するために用いられたものである。しかしながら、人道の基本的考慮によって国際社会はこれらを廃絶する必要の方がそのような理屈よりも重要であると確信した。この原則は今や核兵器に適用されなければならない。核兵器はより大きなリスクを際限なく人類にもたらすからだ。
  忘れてはならないのは、いくつもの国の何百という人口密集地が、核兵器による攻撃目標計画にいまなお入っており、この核兵器はヒロシマとナガサキに落とされた原子爆弾の何倍もの威力をもっていることだ。ヒバクシャ、すなわち原子爆弾で被爆し生き残ったひとびとは、はっきりとこう言ってきた。「私たちの体験した苦しみを二度と誰にも味わわせてはならない」と。生物・化学兵器を禁止する諸条約はこれら兵器を「大量破壊兵器」としている。大量破壊兵器は、定義上、無差別の害悪と不必要な苦痛をもたらすことを禁止する国際人道法の基本的規則に反している。本宣言の付属文書で示したように、このレッテルは、その爆風、熱線および放射線の効果を制御できない核兵器にこそ最も相応しい。
  核兵器は国際人道法に服するとのICJの宣言は、2010年の核不拡散条約(NPT)再検討会議によって確認された。核兵器国を含むすべての参加国が認めた最終文書では、同会議は「核兵器のいかなる使用によっても生じる壊滅的な人道上の帰結に深い懸念を表明し、すべての国家が国際人道法を含む適用可能な国際法をあらゆる時点で遵守する必要があることを再確認する」とした。
  核兵器国が、核兵器廃絶を達成すべき自らの義務を認めながら、同時に、ICJが全員一致で義務であるとした「厳重かつ効果的な国際管理の下におけるあらゆる点での核軍縮に至る交渉」を開始し、かつ「完結させる」ことを拒否するのは、良心を欠いている。
  2010年NPT再検討会議でなされた発言では、130カ国が地球規模で核兵器を禁止しかつ廃絶する条約を求めた。そして同会議全体として、最終文書において「すべての国家が核兵器のない世界を達成しかつ維持するために必要な枠組みを確立する特別の努力を払う必要がある」ことを確認し、「国際連合の事務総長による核軍縮のための5項目の提案」に留意した。この提案は「とくに、強力な検証システムに裏づけられた、核兵器条約または相互補強的な別個の文書からなる枠組みに関する合意の検討を提案」している。
  ICJ所長は核兵器を「絶対悪」と呼んだが、「絶対悪」には絶対的な禁止が必要である。

付属文書 核兵器に関する法

 十分に確立しかつ普遍的に認められた人道法の諸規則は、条約と慣習の双方に根ざしており、ICJが述べたように「人道の基本的考慮」に基づき、かつすべての国家を拘束する。この諸規則は、武力紛争法に関する軍隊の教範に規定され、通常の軍事作戦を指導する。これには以下のものが含まれる。

● 軍事目標と文民または民用物とを区別しないでこれらに打撃を与える性質を有する攻撃の方法および手段の使用の禁止。ICJが示したように「国家は、決して文民を攻撃の対象としてはならず、したがって、文民の目標と軍事目標とを区別できない兵器を決して使用してはならない」。

● 過度の傷害または不必要な苦痛を与える性質を有する戦闘の方法および手段の使用の禁止。

● マルテンス条項。これは以下のことを規定する。文民および戦闘員は、国際取極がその対象としていない場合においても、確立された慣習、人道の諸原則および公共の良心の命令に由来する国際法の諸原則に基づく保護ならびにこのような国際法の諸原則の支配の下に置かれる。

 核兵器は、その爆風、熱線および放射線の効果から、とくに放射線の効果が空間的かつ時間的に制御不可能であることから、これら規則を遵守して使用することはできない。ICJは「核爆発により放出される放射線は、きわめて広い範囲の健康、農業、自然資源および人口動態に影響を及ぼ」し、かつこの放射線は「将来の環境、食料および海洋生態系に損害をもたらす可能性を有し、ならびに将来世代に遺伝的欠陥と疾病をもたらす可能性を有している」ことを認めた。さらに、赤十字国際委員会が認めているように、都市部における核兵器の使用がもたらす苦痛は、「緊急医療援助施設が荒廃することで指数的に増大する」。先行する核攻撃への反撃としてなされる核兵器の使用は復仇としては正当化できない。いかなる状況でも非戦闘員への攻撃が禁止されていることは、広範に批准された条約からなるジュネーブ法と国際刑事裁判所規程において法典化されている。とくに後者は、文民たる住民に対して行なわれる攻撃を人道に対する罪であると定めている。
  加えて、効果が制御不可能であることは、諸国が次の2点を確保できないということを意味する。それは、(1)攻撃で用いられる武力が軍事目的を達成するために必要なものを越えないこと、(2)文民、民用物および環境に与えるその効果が予期される具体的かつ直接的な軍事的利益との比較において過度でないこと、この2点である。この他に確立した規則として、核兵器の使用を排除する武力紛争法においては、(1)戦闘がもたらす損害からの中立国の保護と、(2)自然環境に対して広範、長期的かつ深刻な損害を与えることを目的とするまたは与えることが予測される戦闘の方法および手段の使用の禁止とがある。最近の研究よれば、地球全体の核備蓄のうちのわずかな量(例えば核弾頭100発)が諸都市で爆発すれば、それによって確実に生じる火災の嵐は、その後何年も地球の平均気温を低下させる煤煙を生み出すだろうことが明らかになってきた。農業生産は落ち込み、食料不足が広範囲に生じるだろう。
  第2次世界大戦以降、核兵器が戦時において爆発していないことは、慣習上の使用禁止の形成に貢献している。さらにこのために、2010年米国は「米国の利益でありかつ他のすべての国の利益であるのは、ほぼ65年にわたる核不使用の記録が永遠に延長されることである」と宣言し、オバマ大統領とインドのシン首相も「60年に及ぶ核兵器不使用の国際規範の強化」を支持する共同声明を出している(訳注)。
  核兵器の使用と同じく威嚇も法によって禁じられている。ICJが明確にしたように、攻撃それ自体が違法なら、その攻撃の威嚇は違法である。この規則により、2つの類型の威嚇が違法となる。すなわち、(1)要求(これが合法であれ違法であれ)が満たされなければ核兵器を使用するとの意思を特定的に表示することと、(2)死活的な利益が危険にさらされるときには核兵器に訴えるという準備態勢を宣言する一般的な政策(「抑止」)とである。差し迫った核攻撃または現実の核攻撃に迅速に対応する、先制的または即応的な核攻撃のドクトリンと核戦力が常に準備されているが、これにはこの2類型の威嚇が付随している。
  核兵器による威嚇および核兵器の使用の違法性は、保有禁止の規範を強化する。NPTは大多数の国家について核兵器の取得を禁止する。そして、誠実な交渉を通じて核兵器の廃絶を達成する義務が存在する。この義務は、ICJによって宣言されており、またNPTその他の法に基づくものである。その使用または使用の威嚇が違法である兵器であって、すでにほとんどの国家について禁止されており、かつ廃絶の義務の対象となっているものがある。これを無期限に保有し続けることは合法ではありえない。
  威嚇または使用が人道法に反する兵器を、少数の国が保有し続けることは、人道法そのものの根柢をくつがえす。人道法とは、大小を問わず世界中のあらゆる武力紛争がもたらす影響に制限をくわえるうえで不可欠のものである。このような差別的なアプローチは、NPTと国連安保理における2重構造と相俟って、国際法をさらに一般的に侵食する。国際法の規則はすべての国家に平等に適用されるべきである。したがって、国際安全保障メカニズムとして「抑止」に依存するのは、国連憲章が予想した世界からは遥かにかけ離れている。国連憲章では武力による威嚇または武力の行使は例外であって、原則ではない。
(訳・山田寿則)

原文は以下。
http://www.lcnp.org/wcourt/Feb2011VancouverConference/vancouverdeclaration.pdf

2011年2月10、11日にカナダのバンクーバーにおいて開催された会議の議論を踏まえて作成された。同会議は「人道法、人間の安全保障――核兵器の使用禁止と廃絶のための生起しつつある枠組み」と題して開催され、サイモンフレーザー大学における「国際法・人間の安全保障サイモン記念講座」の認証を得て、サイモン財団および国際反核法律家協会(IALANA)が共催した。

(訳注) 2010年11月8日の米国のオバマ大統領とインドのシン首相との共同声明