核兵器の廃絶をめざす日本法律家協会
 
 
 
 
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米国の核政策の変更と日本政府の態度に対する当協会のコメント

2016年8月2日
日本反核法律家協会
会長 佐々木猛也
 米国が核兵器の「先制不使用」(no first use)政策をとろうとしているとの報道がなされている。「先制不使用」政策とは、核兵器を先制的に使用しない、核攻撃に対する反撃のみに使用するという政策である。現在の核政策は、通常兵器による攻撃であっても、軍事上の必要性があれば、核兵器を使用するというものであるから、この政策変更は、核兵器の役割を低減することになる。オバマ大統領の「核兵器のない世界」に向けての具体的行動の一つともいわれている。
 このような核兵器の役割を低減する方向での政策変更に反対する理由はない。しかしながら、核兵器による報復政策が放棄されるわけではないので、核戦争の危険がなくなるわけではない。ただし、すべての核兵器国が「先制不使用」政策をとるのであれば、核兵器国間での核戦争の危険は解消されることになる。そして、この政策と非核兵器国への核攻撃はしないとの「消極的安全保障」政策が完全実施されれば、地球上で核兵器が使用される危険性はなくなる。残る課題は、核兵器の廃絶ということになる。このような文脈で考えれば、オバマ政権の政策転換は評価に値するといえよう。

 ところで、日本政府はこの米国の政策変更について賛成していない。その理由は、このような政策転換は、北朝鮮や中国に対する抑止力が弱まることになるので、安全保障上受け入れられないというのである。「敵国」が核兵器を使用していなくても、米国が核攻撃をする選択肢を残しておいて欲しいとして、この政策変更の再考を求めているのである。このことは、日本が米国に対して、核兵器の第一使用(first use)を要請する場合があるということを意味している。被爆国の政府が米国の核兵器の役割の低減を妨害しているのである。このような日本政府の姿勢は、核兵器の役割の低減をいう自らの主張と矛盾するだけではなく、国際司法裁判所勧告的意見にいう「自衛の極端な状況」以外にも核兵器の使用を認めようとするものである。被爆国の政府の姿勢としては言語道断といわざるをえない。

 いま、北朝鮮は核兵器は抑止力であるとして核実験やミサイル発射実験を繰り返している。核兵器が自国の独立と安全を担保するという核抑止論は、結局、核拡散を推進してしまうのである。
 他方、国際社会では、核兵器の使用が非人道的な結末をもたらすことに着目して、「核兵器のない世界」の実現に向けての努力が進行している。ところが、核保有国や日本も含む核兵器依存国は、この動きに水を差している。核兵器は国家安全保障のために不可欠だというのである。

 オバマ大統領と安倍首相は、5月27日「安らかに眠ってください。過ちは繰り返しませぬから」と刻まれた慰霊碑に献花した。その行為と核兵器に依存し続ける政策とは相容れない。「核兵器のない世界」の実現は、最初に核兵器を使用した国と最初に核兵器を使用された国の共同と率先垂範によって実現されるべきである。
 オバマ政権が、どのようなレガシィを残せるかは、私たちの働きかけと日本政府や米国内の核兵器依存主義者からの働きかけとの力関係によって決定されるであろう。
 私たちは、米国の政策変更を過大に評価するものではないが、日本政府が政策変更の妨害者として振る舞うことは許されないと考えている。
 私たちは、日本政府に対して、NPT6条の核軍縮義務の履行に逆行するような米国政府に対する働きかけの中止を強く求めるものである。