核兵器の廃絶をめざす日本法律家協会
 
 
 
 
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マーシャル諸島の訴えを退けた国際司法裁判所の判決に抗議する声明

日本反核法律家協会
会長 佐々木猛也
2016年10月19日
声明の趣旨
 国際司法裁判所は、10月5日、マーシャル諸島共和国が核兵器国である英国・インド・パキスタンを相手方として訴えた訴訟について、「当事者間に紛争は存在しない」として、その訴えを却下する判決を出した。当協会は、この判決に対して抗議の意思を表明する。

声明の理由
1.そもそも、この訴訟は、2014年4月、核実験被害国であるマーシャル諸島が、核兵器保有国9か国(米国・英国・中国・ロシア・フランス・イスラエル・インド・パキスタン・北朝鮮)を相手方として、核軍縮交渉義務の不履行の認定や核軍備交渉開始の命令を求めて、国際司法裁判所に提訴したものである。その根拠は、核不拡散条約(NPT)6条や国際慣習法であった。

2.当協会は、同年7月、核兵器廃絶を求める法律家団体として、マーシャル諸島の提訴を歓迎することにとどまらす、管轄権論争を乗り越えて、実体審理に入り、核兵器廃絶の動きに貢献できるよう激励するとのメッセージを在日マーシャル大使館に届けていた。

3.ところで、国際司法裁判所は、両当事国が持ち込んだ事案や「条約の解釈や国際法上の問題などに関する法律的紛争」について裁判所の管轄権を受諾している国家間の提訴についてのみ管轄権を有するとされている(国際司法裁判所規程36条)。要するに、当事国が合意して持ち込んでいる場合か、両当事国が国際司法裁判所の義務的管轄権を認めている場合以外は判断できないのである。

4.英国・インド・パキスタンは、義務的管轄権を受諾しているので、この提訴に対応しなければならない立場にあったが、他の6カ国はこの提訴に何らの対応もしなかった。英国・インド・パキスタン3カ国は、@紛争は存在していない。A必要当事者が不在である。B仮に判決が出でも実効性がない。C管轄権受諾宣言に付した留保の趣旨に反するなどとして、国際司法裁判所の管轄権や受理可能性を争ったのである。

5.今回の判決は、この英国・インド・パキスタンとの関係での判決である。判決はいずれも、管轄権はないとするものであり、その理由はそもそも紛争が存在しないというものであった。管轄権がないとする判断に与したのは、フランス(所長)、米国、英国、中国、ロシア、イタリア、ソマリア(次長)、日本(小和田恆)の9名、あるとしたのはスロバキア、モロッコ、ブラジル、ウガンダ、ジャマイカ、オーストラリア、ベジャウィ特任裁判官の7名である。ただし、英国に対する判決ではソマリア出身のユスフ次長が管轄権ありとしたためフランス出身のローニー・アブラハム所長が決定権を行使している。結局、国際司法裁判所は、実体審理に入ることなく、マーシャル諸島の訴えを「門前払い」したのである。

6.当協会は、この判決に説得力を認めることはできない。その理由は、核実験被害国であるマーシャル諸島と核武装国である英国・インド・パキスタンとの間に条約や国際法の解釈をめぐる紛争があることは明らかだからである。そもそも、国際司法裁判所規程36条の解釈として、マーシャル諸島の訴えを拒否しなければならない積極的理由は存在しない。結局、国際司法裁判所は、規程36条の解釈を誤り、国際法上、核軍縮はどのようにあるべきかの法的判断をすることを放棄したのである。

7.この国際司法裁判所の姿勢は、1996年7月に自ら発出した勧告的意見を後退させるものである。勧告的意見主文2項Fは、核不拡散条約(NPT)6条の核軍縮に関する効果的な措置についての「誠実な交渉義務」だけではなく、その交渉を「完結させる義務」についても勧告していた。マーシャル諸島の今回の提訴は、核兵器国にこの勧告的意見の実行を求めるものであった。国際司法裁判所はこの勧告的意見を論拠とする訴えを許容しなかったのである。

8.また、この判決で日本から選出されている小和田判事が「門前払い」に同調していることも看過できないところである。1996年の勧告的意見に際して小田滋判事(当時)が、勧告的意見を出すことに反対した姿と重なり合うものである。戦争被爆国を出身地とする彼らの存在意義はどこにあるのかと情けない気持ちになるところでもある。

9.当協会は、この国際司法裁判所の判決に抗議するとともに、国際司法裁判所の無気力と無責任さを乗り越える運動の構築を目指すこととする。