核兵器の廃絶をめざす日本法律家協会
 
 
 
 
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声 明

原発「安全神話」の崩壊と新たなヒバクシャの
発生に対する日本反核法律家協会の見解

日本反核法律家協会
会長 弁護士 佐々木猛也
事務局長 弁護士 大久保賢一

 東北地方太平洋沖大地震で亡くなられた方々に心からの哀悼の意を表明します。けがをされた方、家族を亡くされた方、家屋などを失った方、避難生活を余儀なくされている方など、全ての被災者に心からお見舞い申し上げます。一刻も早い復興のためにがんばりましょう。

 ところで、大地震・大津波という自然災害と合わせて、原発事故が発生しました。「核兵器の廃絶をめざす日本法律家協会」(日本反核法律家協会)は、今回の原発事故について、次のとおり見解を述べます。

 1.福島第1原子力発電所から放射性物質(セシウム、ヨウ素など)が漏出し、近隣住民、作業員などが被ばくしている。新たなヒバクシャの発生である。これ以上ヒバクシャを出してはならない。また、原発から放出された放射性物質が各地で検出されている。今後、人々や環境にどのような悪影響を及ぼすかは予断を許さない。スリーマイル島の被害を超え、チェルノブイリ事故を連想させている。
  原発の「安全神話」は崩壊したのである。われわれは、これ以上事態が悪化しないよう、東京電力、政府及び関係機関に全力で対処するよう求め、被災者の救済に全力を尽くすよう要望する。

2.この原発は、原子炉内の核分裂反応によって生成された放射性物質の漏出を防げなかった。東京電力や政府は、核分裂エネルギー利用に伴う危険性を指摘する意見を無視して、原発は安全であると喧伝してきた。裁判所もそれを追認してきた。
  ところが、現実はそうではなかった。冷却装置の機能不全によって炉心の温度を下げることができないという初歩的なミスによって、多くの人々が被害を受けている。
  「原子炉の運転に際して、放射線の作用による損害(原子力損害)を与えたものは、無過失責任を負わなくてはならない。」とされている(「原子力損害の賠償に関する法律」第3条)。われわれは、新たなヒバクシャを生みだした責任の所在を明らかにしていく。

3.原発推進勢力は、この冷却装置の機能不全の原因は、想定外の規模の地震や津波による停電及び予備的ディーゼル発電装置の不具合としている。あたかも想定外の天災に原因があるかのような主張である。「異常に巨大な天災地変の場合には、責任を負わない」とする例外規定(同法第3条但書)を念頭に置いたものであろう。
  しかしながら、日本列島で地震や津波による災害が多発していることは公知の事実である。既に、吉井英勝議員(日本共産党)は、2006年、「崩壊熱が除去できなければ、最悪の場合、炉心溶融、水蒸気爆発、水素爆発などが起きうる。チェルノブイリに近いことを想定して対策を立てなければならない。」として、地震や津波による電源確保が不可能になった場合の対応を政府に問いただしていた。また、2007年、日本共産党福島県議団は東京電力に対し、「福島原発は、チリ地震級の津波が発生すれば、冷却水喪失による過酷な事故に至る危険がある」としてその対策を求めている。
  これに対して、政府は「原子炉を冷却できる対策は講じられているものと承知している。」と他人事の様に対応し、東京電力は対策を講ずることを拒否したのである。 
  当時から、今回の事態は予見されていたにもかかわらず、政府も東京電力も何らの対応策を取ってこなかった。彼らの予見能力の低さと回避努力の怠慢が指摘されるべきである。そこには、原子力事業者としての重大な過失があることは明白であるし、政府の無責任さも看過されるべきではない。「異常に巨大な天災地変」という言い訳を許容することはできない。今回の原発事故は「人災」の側面を持っているのである。

4.また、政府や「有識者」の一部は、この程度の放射線の漏出は健康に影響がないかのように言っている。しかしながら、政府には、原爆症認定に当たって、原爆放射線の内部被ばくによる影響を無視してきた前歴がある。その主張を合理化してきた「有識者」もいる。放射線被ばく、とりわけ「内部被ばく」のメカニズムは解明されていないが、その危険性は原爆症認定訴訟の過程で明らかにされている。
  放射線の人体への危険性を過小評価することは未知の領域に対する不遜な態度である。人類は放射線をコントロールする知恵と技術を、未だ、十分には持ち得ていない。われわれは、この事実を共有しなければならない。
  政府は、危険性の有無や程度という結論を述べるだけではなく、「隠すな、嘘をつくな、意図的に過小評価するな」の原則を踏まえ、客観的データーを速やかに公開し、専門家の分析を求めるべきである。
  われわれは、東京電力に対して政府への速やかな情報提供を要求するとともに、政府に対して、その情報公開、専門家からの意見聴取などを行い、「最悪に備えて、最善を尽くす」ことを求める。

5.原発は、地球温暖化に対応できるクリーン・エネルギーであるかのようにいわれている。しかし、原発は核分裂を利用する点で本質的に危険なものである。決して安全でもクリーンでもないことは、今回の事態が雄弁に物語っている。
  また、今回の地震や津波は、日本の観測史上では最大であったかもしれないが、人類史上で最大であったわけではない。想定できたし想定すべきであった。
  原発推進勢力は、放射性物質の危険性と自然の脅威の双方についてあまりにも無知であり、無神経であり、無責任だったのである。
  人間社会にエネルギー源は不可欠であるが、その確保のために怠ってならないのは、人命に対する安全性の確認である。利潤追求原理に突き動かされる事業体に安全管理を丸投げすることは無謀である。東京電力の今回の事故対応を見れば、情報開示の不十分さや、対応の無責任さは明らかである。
  そして、事業体をコントロールできない国家機関は有害である。経済産業省に設置されている原子力安全保安院のあり方について検討されるべきである。

6.政府の原発の危険性についての無知と無責任さは、核兵器によってわが国の安全を確保しようとする姿勢と共通している。
  核エネルギーの人体と環境に対する悪影響についての謙虚な検証と、そのコントロールの可能性と現実性についての真剣な検討が求められている。
  われわれは、人類と共存できない核兵器の廃絶を求めるだけではなく、人命の尊重を最重要とする原点に立って、わが国の原発事業の再検討を求める。

2011年3月17日