2024年7月28日、日米安全保障協議委員会(日米2+2)及び拡大抑止に関する閣僚会合が開催された。
日米2+2共同発表では、中国、北朝鮮、ロシアを名指しで非難するとともに、それらの脅威に対抗するために日米同盟を強化することの必要性を謳い、「核を含むあらゆる能力を用いた日米安全保障条約第5条の下での日本の防衛に対する米国の揺るぎないコミットメントを改めて表明」した。また、横田基地の在日米軍司令部を統合軍司令部として再構成することが明記されたものの、自衛隊が独立した指揮系統になることは明記されず、自衛隊が事実上米軍の指揮下に入る危険性が高まったといえる。
さらに、初めて開催された拡大抑止に関する閣僚会合の共同発表においても、北朝鮮、中国、ロシアの核態勢を非難し、危機を煽ることで同盟の抑止態勢の強化の必要性を述べ、「米国の核政策及び核態勢並びに同盟における核及び非核の軍事的事項の間の関係性について緊密に協議する両国のコミットメントを再確認」している。
2024年7月11日に発表された、朝鮮半島における核抑止及び核運用に関する米韓ガイドラインについての米韓大統領の共同声明においては、同ガイドラインが米韓拡大協力を統合的に強化するための強固な基盤を提供するものであることを強調し、効果的な核抑止政策と態勢を維持・強化するための指針を同盟の政策と軍当局に提供するものとしている。すなわち、核兵器を含む米韓両国の軍事態勢の一体化を推進させるものである。
上記2つの共同発表と同時に発表された日米間防衛相共同プレス声明では、日米韓3か国の協力をさらに発展させていくとしていることからも、同日米共同発表は、米韓の核兵器を含む連携態勢を日米間でも実施するための第一歩であると考えられる。かねてより、日本政府は表面上は非核3原則を保持しているように見せかけながら、核兵器にまつわる密約を米国と交わし、米国による核先制不使用政策にも反対し、核共有まで選択肢に入れようとするなど、非核三原則をないがしろにし続けてきた。本共同発表は、これまで水面下で行われていたこれらの核政策を表立って行うことを想定するものといえ、明示的に非核三原則を放棄するものに他ならず、決して許容することはできない。
他方で、NATO事務総長による核配備発言、米国が支援するイスラエルの閣僚による「ガザ地区への核投下も選択肢」との発言など、核使用の緊張を高める自陣営の行動には何ら触れておらず、核兵器廃絶のための取組みにも全く触れられていない。
このような態度は、自らの核は「正義」、相手の核は「悪」として、一方的に相手を非難し、自らを正当化するものである。しかし、核兵器のいかなる使用も壊滅的人道上の結末をもたらすのであり、いかなる理由でも核兵器の使用は許されてはならない。ヒロシマ、ナガサキ、そして世界各地で行われた核実験の被害を決して繰り返してはならないのであり、そのための唯一の方法は、世界から核兵器を廃絶することである。このことは核兵器禁止条約が明確にしているところである。
近時、拡大抑止を主張し、米国をはじめとして、中国、北朝鮮、ロシア等に対して圧力をかけ続けてきた結果、ロシアのプーチン大統領による核威嚇やベラルーシへの核配備、中国による核軍拡、北朝鮮による核先制使用の明言、NATOや米韓共同訓練による核兵器使用の演習、米国の臨界前実験の実施等、核兵器をめぐり対立と緊張関係を高め、核兵器使用のリスクを高めることとなっている。ストックホルム国際平和研究所の報告書によれば、中国、北朝鮮では核戦力が増強され、「ほぼすべての核保有国が核戦力の増強を推進するか、計画を持っている」と指摘される事態に至っている。核抑止論に基づく拡大抑止の政策は、結果的に核兵器使用のリスクを高めているものというほかない。
今回の2+2及び拡大抑止に関する日米閣僚会合は、核兵器の非人道性を顧みることなく、効果も実証されていない核抑止論に拘泥し、核兵器による恐怖に支配される世界へと突き進み、終局的には核兵器の使用による非人道的な結末へと歩みを進めるものである。かかる姿勢は、核兵器禁止条約などにより核廃絶を進めようとする世界情勢に明らかに逆行するものである。
核廃絶を標榜しながら、核兵器に依存しその保有や使用を前提とする両政府の虚妄は、極めて危険なものと言わざるを得ない。当協会は、かかる方針を提起した日米両政府に対し強く抗議するとともに、核抑止論への依存から直ちに脱却し、核兵器禁止条約に基づく現実的な核廃絶の道を真摯に追求することを求める。
2024年8月5日
日本反核法律家協会会長
大久保 賢一