米国のトランプ大統領は、6月22日(日本時間)、「米軍はイランの3つの主要な核施設を標的とした大規模な精密攻撃を行った。われわれの目的はイランの核濃縮能力の破壊と、世界最大のテロ支援国家がもたらす核の脅威を阻止することだった。私は世界に対して、この攻撃が軍事的に見事な成功を収めたことを報告できる」と演説した。
他方、イランは米国の攻撃は「国連憲章や国際法、核兵器不拡散条約(NPT)の重大な違反行為」だと非難し、「イランの主権や国益、国民を守るため、あらゆる選択肢がある」、「中東の地域にいる、すべてのアメリカ人と米軍は正当な標的となる。」と述べた。同月24日には停戦合意がなされたとの報道もなされたが、停戦が維持されるかは不明瞭である。米国によるイランへの攻撃は、中東のみならず、世界の平和にとって極めて危険な事態をもたらしたものというほかない。
米国はイランの核施設に対する武力攻撃について「核濃縮能力の破壊」や「核の脅威の阻止」などと正当化している。しかし、イランはNPTの締約国であり、これまで交渉に応じてきている。むしろ、イランのウラン濃縮度に上限を設ける2015年の米欧とイランの核合意(JCPOA)を一方的に破棄したのは、第1次トランプ政権である。過去の経緯を無視して行われたイランの核施設に対する武力攻撃は、放射能汚染を招きかねない危険極まりない行為であり、武力行使を原則禁止した国連憲章に違反し、NPT及び慣習国際人道法に違反する可能性がある。
NPT6条は、「各締約国は、核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うことを約束する。」と規定している。締約国である米国もイランも「誠実な交渉」を約束しているのである。米国がイランに対して「核兵器の放棄」を求めるのであれば、誠実な交渉によるべきである。しかしながら、米国はこの交渉を求めようともしなかった。にもかかわらず、加盟国イランに対して行われた今回の武力行使は、NPT体制の崩壊にもつながりかねない暴挙である。
国連憲章は、「国際紛争を平和的手段によって解決しなければならない。」としている(2条3項)。そして、当事国は交渉などの「平和的手段による解決を求めなければならない。」としている(33条1項)。国際の平和や安全は、誠実な交渉、対話と外交努力によって達成できる事柄であり、武力の行使は逆効果である。
当協会は「人類と核は共存できない」との立場から核兵器の廃絶と被爆者支援をめざす法律家団体として、米国によるイラン核施設への武力攻撃を強く非難し、今後、一切の武力行使を慎むよう強く要求する。
2025年6月26日
日本反核法律家協会会長
大久保 賢一